【ケイシーの映画冗報=2023年2月16日】本作「バイオレント・ナイト」(原題:Violent Night、2022年)で、クリスマス・イブにバーで酒をあおるサンタクロース(演じるのはデヴィッド・ハーバー=David Harbour)は、最近の子どもたちへのプレゼントが“テレビゲーム”ばかりで労働意欲も減退気味でしたが、不満をつぶやきながら、なんとか仕事をこなしていました。
7歳の少女トゥルーディ(演じるのはリア・ブレイディ=Leah Brady)は、別居中の両親と父親の実家であるライトストーン家の屋敷でクリスマスを祝っています。金だけはあるライトストーン家では、トゥルーディの祖母で当主のゲートルード(演じるのはビヴァリー・ダンジェロ=Beverly D’Angelo)の資産を受け継ぐことで一族が張り合っている状況でした。
深夜、ライトストーンの屋敷は武装集団に襲われます。スクルージ(演じるのはジョン・レグイザモ=John Leguizamo)の率いるチームが、地下金庫に隠された3億ドル(約400億円)の現金を強奪にきたのでした。
そこに姿を見せたサンタクロースは、武装集団から“敵”と判定されます。最初は面倒なことを忌避していたサンタでしたが、“良い子”であるトゥルーディを救い、彼女の願いをかなえるため、武装集団との戦いに身を投じることに。およそ戦闘には不向きなはずのサンタですが、かなりの善戦をみせます。
それにはサンタの過去の人生が色濃く反映されていたのです。クリスマス(・イブ)+サンタクロース=プレゼント。この流れは日本ではとくに子どもたちの認識となっていますが、キリスト教圏でも、宗教的な式典であると同時に、子どもたちのお楽しみになっています。
クリスマスを舞台とした映画には、“世界一、運の悪いヤツ”が犯罪集団と戦う「ダイ・ハード」(Die Hard、1988年から)シリーズ(クリスマスの時期なのは初期の2作)や、少年がクリスマスにひとりで泥棒と戦う「ホーム・アローン」(Home Alone、1990年から)シリーズがあり、このシリーズのエッセンスは、本作にもしっかりと受け継がれています。
クリスマス・シーズンというより“冬のアイコン”となっているサンタクロースは、キリスト教における博愛の象徴なのですが、映画の世界はその正反対の躍動をしているものもあります。「サンタが殺しにやってくる」(Christmas Evil、1980年)や「悪魔のサンタクロース惨殺の斧」(Silent Night, Deadly Night、1984年)のような殺人犯であったり、犯罪チームがクリスマスのカジノをサンタの姿で襲う「レインディア・ゲーム」(Reindeer Games、2000年)など、“清く正しい”存在ではないことは珍しくありません。
近作でも武闘派のサンタが自分を狙う敵と戦う「クリスマス・ウォーズ」(Fatman、2020年)がありました。本作のサンタもバイオレンス風味たっぷりですが、その力の源が“良い子の願いをかなえる”という、本流の立ち位置となっています。ただし、ひらすた戦い、悪漢たちをたたきのめすというものですが。
登場するキャラクターやシチュエーションは、前述の「ダイ・ハード」や「ホーム・アローン」だけでなく、さまざまな映像作品がモチーフとなっています。格闘シーンでサンタが使う武器や、戦い方には過去作品のオマージュがタップリ詰まっていて、自分のようにアクション映画好きは、ニヤニヤしてしまうことでしょう。
監督のトミー・ウィルコラ(Tommy Wirkola)は、「この映画には多くのクリスマス映画から拝借した“イースターエッグ(隠されたメッセージやユーモア)”がたくさん仕込まれている。もちろんオリジナルな要素もたくさんあるよ」と語っており、監督の意図は、すくなくとも自分にはピッタリとはまったようです。
ですが、その一方で、「どんなに滑稽でクレイジーに描かれていても、僕たちなりにクリスマスの精神を貫いている。みんながクリスマスに繰り返し観てくれる映画になったら嬉しいね」(いずれもパンフレットより)ともコメントしており、“荒唐無稽だが破綻していない”作品に仕上がっていると感じます。「サンタクロースが実在する」というだけで、充分にファンタジーですし。
なお、アメリカではクリスマス・シーズンによく鑑賞される作品に「素晴らしき哉、人生!」(It’s a Wonderful Life、1946年)があります。善良な人物が人生に悲観するも奇跡の復活を遂げるという作品ですが、“天使が実在する”というファンタジー要素も折り込まれていますので、“サンタが実在する”本作も悠久の名作になる可能性はあるはずです。バイオレンス要素が懸念材料ではありますが。次回は「ワース 命の値段」を予定しています(敬称略。【ケイシーの映画冗報】は映画通のケイシーさんが映画をテーマにして自由に書きます。時には最新作の紹介になることや、過去の作品に言及することもあります。隔週木曜日に掲載します。また、画像の説明、編集注は著者と関係ありません)。