椅子と骨(短編小説編3)

【モハンティ三智江のフィクションワールド=2023年12月8日】私の母は彼に2年遅れて、亡くなった。私は世界を襲った疫病流行で、移住国から帰国できず、危篤時の最期の対面はおろか、その後の葬儀にも参列叶わなかった。半年後に戻って、遺産相続を済ませた後、母の1周忌に参列、京都の本廟に分骨した。その納骨儀式において、亡き母のお骨を初めて目にする機会を得た。

白っぽく石灰化した骨はもろく砕け、彼の骨との違いに意表をつかれた。自然の火葬でなく、高温処理されたことによるのかもしれない。母の浄らかな雪のように浄化され、高熱の火に晒された遺骨に比べると、彼の黒っぽいシナモンスティックのような骨は、まだ穢れが染み付いているような気がした。肌の色が違うように、あるいは、人種の差異によるものかもしれないと訝しみながら、私はかの地にあったときの不思議な体験を思い起こしていた。

彼が、明るい昼日中に、私の3階の書斎を訪ねてきたことがあったのだ。肉体を持たないエネルギー体で。彼が侵入したとき、私は敏感に部屋の空気の流れが変わったことを察知した。ん?K?私は彼のニックネームを呼んだ。間違いなく私の奥深い部分は彼の存在に感応したのだ。

次に私は、故人にとってはあまりにも残酷な反応を示したのだった。とっくに天国に行ったと思ってたのに、まだいたのという驚き呆れ、どこか咎めるような節すらあった。歓迎されると期待していたにちがいない彼は、まだ肉体を持ってこの世に生きているパートナーのあからさまな反応、拒絶と言ってもいい邪険な応対にたじろぎ、落胆したはずだ。

尾てい骨の辺りに蛇がとぐろを巻くように渦巻き滞っているネガティブなエネルギー、どろりとした未浄化のエネルギーを私は如実に感じ、そのせいで彼が昇天できないことを知った。また、彼自身の執着、遺族とともにこの世の家にとどまりたいとの強い欲求も感じた。

彼は肉体を去ったあとも、私や息子と一緒にいたがった、いることを欲したのだ。心ならずもあとに残すことを余儀なくされた家族のこと、特に異人の妻の行く末が気がかりでならなかったのだ。

死んですぐに悟れるわけもないと、私は改めて思い直し、丸1年、疫病流行で避難帰省した息子と私が隔離生活を送る本宅にとどまることを選んだ彼を認め受容した。

(「フィクションワールド」はモハンティ三智江さんがインドで隔離生活を送る中、創作活動にも広げている続きで、「インドからの帰国記」とは別に、短編など小説に限定して掲載します。本人の希望で画像は使いません)