ヴァニラ展、鯨虎じょう大賞、内田佳織が都築賞、相原理恵が宮田賞

【銀座新聞ニュース=2018年3月4日】ヴァニラ画廊(中央区銀座8-10-7、東成ビル、03-5568-1233)は3月6日から11日まで「第6回ヴァニラ画廊大賞展」を開く。

3月6日から11日まで開かれる「第6回ヴァニラ画廊大賞展」に展示される女流作家の鯨虎じょうさんの大賞受賞作品の「宇宙風景」。陶で造られた焼き物にもかかわらず、いわゆる陶器ではなく、現代アートとして表現している。

ヴァニラ画廊大賞展は「エロティック、フェティッシュ、サブカルチャーのアートに特化した」公募展で、毎年10月1日から31日まで募集し、11月に第1次審査を行い、12月以降に第2次審査によって大賞など入賞作を決めている。2012年10月に第1回がスタートし、2017年10月から第6回目の公募が実施され、今回、入賞した作品と入賞を逃しても将来を期待できる作家の作品を展示する。

審査員は写真家の都築響一(つづき・きょういち)さん、美術評論家の宮田徹也(みやた・てつや)さんとヴァニラ画廊の店主の内藤巽(ないとう・たつみ)さんが担当している。また、美術評論家の南嶌宏(みなみしま・ひろし、1957-2016年1月10日)も審査員を務めていたが、2015年度の審査員賞を決めた後で、脳梗塞により長野県松本市の病院で死去している。

第6回の大賞は2016年に多摩美術大学美術学部工芸学科陶プログラムを卒業し、現在、同大学大学院博士前期過程美術研究科工芸専攻陶研究領域に在籍している女流作家の鯨虎(いさなこ)じょうさんの「宇宙風景-トコノマ(TOKONOMA)002」(陶)が受賞した。

審査員の都築響一さんは「それ自体がうねうねと増殖する深海の生きもののようでもある。大地を象が支え、それを亀が支え、さらに蛇が支える古代の宇宙図像のようでもある。最初はよくわからなかったのが、細部を見ていけばいくほど、奥に引き込まれていく」という。

「気がつけば長い時間が経っていて、立体の本を読んでいたのかと思う。奇怪でもあれば美しくもある、硬くて柔らかなカタマリ。作家の内面から弾け出すエネルギーの激しさに圧倒された」と評している。

宮田徹也さんは「今年のヴァニラ画廊大賞応募作品のほとんどは、阿鼻叫喚の地獄を通り越した現代を見事に映し出していた」とし、「誰も信じられない」や「先が全く見えない」、あるいは「悪魔主義」という「主題と作品が大半を占め、見ている私達の心が痛んだ」という。

さらに「共感を求めることなく自己の心情を吐露する思いにこそ、アーティストである本質が秘められている。鯨虎じょう《宇宙風景》もまた『ネガティブでマイナスなエネルギーを、昇華させる為に』制作された。私達に共通した認識は、この作品に見えなくとも希望があることにある」としている。

都築響一賞には2016年に文化服装学院を卒業した内田佳織(うちだ・かおり)さんの「嘔吐」(アクリル絵の具、刺繍)、宮田徹也賞には相原理恵(あいはら・りえ)さんの「人間」(透明水彩)、ヴァニラ賞には武蔵野美術大学造形学部油絵学科版画専攻を卒業、版画工房「カワラボ(Kawarabo)」(東京都町田市原町田4-28-1、042-719-7150)研究生の女流作家、今泉奏(いまいずみ・そう)さんの「父の夢を見る」(ウォータレス・リトグラフ)が選ばれた。

都築響一さんは内田佳織さんの「嘔吐」について、「ひと針ずつ進めていく、その作業にかかる手間が、そのまま思いの強度をあらわすメーターの針のようにも見えてくる。こころの闇に捧げられた、ひとり千人針」としている。

宮田徹也さんは相原理恵さんの「人間」について「数ある作品の中で、どうしても私の心から離れられない作品」という。相原理恵さんの作品説明には「生きること。五感を使い、六感で生きて、全身で生を叫ぶ。人一人が悩み迷い、時には救われながら、生の実感を体に刻み付けるその在り方を表現しました」とある。

それを受けて、宮田徹也さんは「透明水彩で20枚のスケッチブックに描き、貼り合わせた作品である。(略)総体として遠目で眺めると確かに人物ではあるのだが、私にはそれが一人の人物ではなく複数の人間に見えてくる。ここに絶望とか希望を見出すのではなく、人間と人間との間の関係性(H・アーレント)が描かれていることに、私は喜びを感じた」としている。

ヴァニラ賞の今泉奏さんの「父の夢を見る」について、内藤巽さんは「古来より蛇は、輪廻転生を象徴する生物として崇められてきました。ゆえに、蛇神メシンが太陽神ラーを守るために円状に取り囲んだことが、ウロボロスの概念の原型として言われており、自分の尾を咥えた蛇の円形は、『完全なる円』をかたどる死と再生のシンボルとされて」きたという。

今泉奏さんは「夢の中で出会った今は亡き父親と、彼を見つめる自らと家族を描いた」としている。その言葉の中に、内藤巽さんは「『父に会いたい』との募る想いを、古往今来、家族を見守り続ける象徴として柔らかなリトグラフのタッチとモノクロームの濃淡で表現しています。欠けてしまった家族の輪を再び繋ぎ合わせた、その真摯(しんし)な祈りの強さと、優しい眼差しに心を打たれ」たとしている。

奨励賞は小谷野翼(こやの・つばさ)さんの「マシン(machine)」(紙、アクリル画)、おおのあやかさんの「フェラチオ(Fellatio)」(アクリル、メディウム、キャンバス)、高本奏(こうもと・そう)さんの「論理について」(キャンバスにミクストメディア)、高橋(たかはし)ひかるさんの「無呼吸」と「過呼吸」(岩絵の具、水干絵の具、和紙)。

開場時間は12時から19時(土曜日、祝日は17時)まで。入場は無料。