大和の建造から沈没まで描き、未来への警鐘にした「アルキメデス」(269)

【ケイシーの映画冗報=2019年8月8日】1970年の超大作戦争映画「トラ・トラ・トラ!」(Tora!Tora!Tora!)の劇中、日本海軍の開いた会議のなかにこんな会話があります。

現在、一般公開されている「アルキメデスの大戦」((C)2019「アルキメデスの大戦」製作委員会)。

「すでに6万4000トン、主砲46サンチ(センチのフランス語読みで、旧日本海軍で多用された)、不沈艦2隻の完成も間近い今日、それを主力として我々は・・・」

「浮かんでいるものはいずれは沈む。“不沈艦”というのは幻にすぎません。欧州の戦局を見ていただきたい。海陸を問わず、制空権なきものはかならず敗れている」

これは大東亜戦争の開戦前のシーンですが、結局、「不沈艦2隻」の“大和(やまと)”と“武蔵(むさし)”は活躍を期待されながらも、建造時には予想もされなかったはげしい航空攻撃により、撃沈されてしまいました。

「アルキメデスの大戦」は7月26日に全国345スクリーンで公開され、土日2日間で動員20万2000人、興収2億6500万円をあげた。これは2013年12月21日から公開され、最終興収87.6億円を記録した山崎貴監督の「永遠の0」の興収比48.9%だった。公開3日間では動員26万6000人、興収3億4600万円を記録しており、最終興収15億円以上が見込めまれている。

本作「アルキメデスの大戦」は大東亜戦争も末期である1945年4月、絶望的な戦いの結果、最期を遂げる戦艦“大和”の姿からはじまります。

1933年、日本海軍では、世界最大の戦艦を建造する計画を持っていました。大きなフネに大きな大砲を載せることを命題とする“大艦巨砲主義の頂点”となるべき巨艦でした。

一方、これからの戦争は航空機が決するという“航空主兵”を信じる山本五十六(やまもと・いそろく、1884-1943。演じるのは館=たち=ひろし)少将は、「戦艦ではなく空母を作るべき」と巨大戦艦の建造計画に反対したが、「新戦艦のほうが安く造れる」という意見が優勢という状況でした。

「巨艦なのに安すぎる」ことを不審に思った山本少将がその建造費の矛盾を指摘し、戦艦建造の白紙撤回をめざして声をかけたのが、数学の天才でありながら、帝大(いまの東大)を追われた櫂直(かい・ただし。演じるのは菅田将暉=すだ・まさき)で、戦艦建造計画の問題点を探すよう、依頼します。

櫂は「軍人が大嫌い」ということで当初は断りますが、将来の戦火による悲劇のイメージを得たことから、戦艦建造計画を廃棄するために奔走することになります。かぎられた時間や軍事機密の壁、さらには海軍部内での妨害など、さまざまな障害に直面しながら、圧倒的な数学のセンスと、愚直なまでの探究心で、問題を突き破ろうとする櫂。

やがて確信を得た櫂は、戦艦建造対空母建造を決定する会議に、絶対の自信を持って臨むのですが、事態はおもわぬ展開をしていくことになるのでした。

データに裏打ちされたストーリー展開で定評のある三田紀房(みた・のりふさ)の原作コミックを映画化した監督・脚本の山崎貴(やまざき・たかし)は、日本映画界ではめずらしい、特撮畑出身の映画監督です。

原点である特撮だけでなく、CGでの映像作りにも造詣が深く、代表作「オールウェイズ(ALWAYS)三丁目の夕日」シリーズ(2005年から2012年)で昭和30年代の東京を完全再現し、また「永遠の0(ゼロ)」(2013年)では、大東亜戦争を戦った戦闘機ゼロ戦の一代記を迫力ある映像で描いています。

「スペースバトルシップ(SPACE BATTLESHIP)ヤマト」(2010年)という監督作品もあり、宇宙戦艦となったヤマトも手がけてもいて、戦艦大和との関わりがかなり強いクリエイターともいえるでしょう。

山崎監督は、本作の特撮スタッフに、本作における狙いをこう告げたそうです。「大和がどうやって沈んだのかを忠実に再現したい」(2019年7月27日付読売新聞)

巨艦が無数の敵機による攻撃にさらされ、鋼鉄の戦艦とは比べ物にならないほど脆弱な乗組員が次々とたおれていく。やがて満身創痍となった“大和”が、多くの生命を抱えたまま、海面下に沈んでいく……。

衝撃的なオープニングではじまり、巨大戦艦の成り立ちを描いていく物語は、悲劇を生む過程を観客に追体験させる??もちろん、史実に則ったものではありませんが、すこしショッキングな展開となります。

「今の時代の空気が『大和』建造時に似ている。戦争に向かっているような雰囲気を危ぶむ気持ちがあった。『アルキメデス』では大和建造を巡る物語を描くことで、未来への警鐘になると考えた」(前掲紙)

過去を舞台としながら、現代的な世界にも含みを持たせる。この感覚は山崎監督だけでなく、主演の菅田将暉も同様だったようで、菅田はこう感じたそうです。「(過去の戦争に)無意識のうちに距離をおき、ファンタジーにしてしまったかもしれない。それを取り除こうと思った」(2019年7月19日付読売新聞夕刊)

ちなみに航空機が大東亜戦争の主力となると主張した日本海軍の軍人が語ったという言葉が残っています。「世界の3馬鹿。万里の長城にピラミッド。そして戦艦大和」

次回は「ライオン・キング」の予定です(敬称略。【ケイシーの映画冗報】は映画通のケイシーさんが映画をテーマにして自由に書きます。時には最新作の紹介になることや、過去の作品に言及することもあります。当分の間、隔週木曜日に掲載します。また、画像の説明、編集注は著者と関係ありません)。

注:「大和」は1940年8月8日に建造され、1941年12月16日に就役、1945年4月7日に九州坊ノ岬沖にて沈没した。大和の沈没に伴う戦死者は2740人、生存者269人だった。「武蔵」は1940年11月1日に建造され、1942年8月5日に就役、1944年10月24日にレイテ沖海戦にてシブヤン海で沈没している。武蔵の沈没に伴う戦死者は全乗組員2399人中、1023人、生存者が1376人だった。

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