ターミネーターが女性の引き立て役になる「ニューフェイト」(276)

【ケイシーの映画冗報=2019年11月14日】1984年、低予算映画で特撮スタッフだった映画人が手がけた1本のB級映画が大ヒットしました。のちに「タイタニック」(Titanic、1997年)や「アバター」(Avatar、2009年)で映画の興行収入を塗り替えていくジェームズ・キャメロン(James Cameron)が生み出したSFアクション映画「ターミネーター」(TheTerminator)です。

現在、一般公開中の「ターミネーター:ニュー・フェイト」((C)2019 Skydance Productions, LLC, Paramount Pictures Corporation and Twentieth Century Fox Film.)

「未来からきた人間型の殺人ロボットが、将来の脅威である現代人を狙う」「未来の人類は、テクノロジーによって絶滅の危機にある」といった「ターミネーター」のプロットは、それまで過去のSF作品で描かれてきましたが、メカをデザインし、絵コンテも描き、カメラマンであり、監督で脚本家であるキャメロンの生んだ“悪のヒーロー”(日本公開時のキャッチ・コピー)は、オーストリア出身の肉体派俳優アーノルド・シュワルツェネッガー(Arnold Schwarzenegger)をハリウッドの大スターにし、さまざまなメディアで「ターミネーター」風の作品が生み出されました。

続編「ターミネーター2(T2)」(Terminator 2: Judgment Day、1991年)はキャメロン監督・脚本にターミネーター役をシュワルツェネッガーという鉄壁のコンビで、前作の15倍となる制作費1億ドル(約100億円)を使いながら5億ドル(約500億円)の世界興収をあげ、日本でも興収88億円を越えるヒットを記録しました。

その後、3本の「ターミネーター」の映画シリーズが生み出されていますが、作品の質はともかく、興行的には大成功を引き出せてはいません。

本作「ターミネーター:ニュー・フェイト」(Terminator:Dark Fate)は監督こそ長編作品2本目のティム・ミラー(Tim Miller)となっていますが、キャメロンがストーリーを手がけ、シュワルツェネッガーがターミネーターを、1作目のヒロインで、2作目では戦うヒロインとなったサラを演じたリンダ・ハミルトン(Linda Hamilton)が同じ役で復帰しています。

世界の破壊が未然にふせがれた2020年。メキシコの自動車工場に勤める女性ダニー(演じるのはナタリア・レイエス=Natalia Reyes)は、姿を変え、銃で撃たれても死なないターミネーターRev-9(レブナイン、演じるのはガブリエル・ルナ=Gabriel Luna)に襲われたところを、“未来の女性戦士”グレース(演じるのはマッケンジー・ディヴィス=Mackenzie Davis)に助けられます。

Rev-9に追い詰められたふたりを助けたのは、“機械と戦い続けてきた”という女傑サラ(演じるのはリンダ・ハミルトン)でした。未来の壊滅を阻止したサラでしたが、結局はターミネーターに愛する息子を殺され、絶望していましたが、何者かにターミネーターを狩る運命を与えられ、今回もダニーとグレースを助けたのだといいます。

また、グレースによれば、ダニーこそが自分の生まれた“機械との戦争がつづく未来”での人類の指導者にかかわりがあるという事実。突然のことに戸惑うダニーでしたが、やがて戦いを決意し、自分を狙うRev-9を倒すことを宣言します。

未来と現在の戦士、そして将来の救世主という3人の女性は、未来からやってきたもうひとりの存在と合流することになります。その人物こそ、サラにターミネーターの存在を伝えた張本人でした。

監督のティム・ミラーをはじめ、本作の関係者は「これこそ、T2の正当な続編だ」と表現しています。シリーズの根源であるキャメロンをはじめ、キャストにT2のメンバーが揃っていることもあるのでしょうが、それ以上に過去作品とのつながりを感じるのは、作品の核となる部分の共通項です。

キャメロン監督の手がけた2作は「平凡な女性が自身の未来を知り、現状を戦い抜く」という大きな命題がありました。1作目でふつうの若い女性だったサラが、2作目では“救世主の母”として、たくましい女性戦士となっていることは、その象徴でしょう。

「(ターミネーターは)いつでもリンダ・ハミルトンの、サラの話だった」(パンフレットより)と語るミラー監督のイメージがそのまま投影されたのでしょう。本作で、ターミネーターに狙われ、戦う3人が女性となっていることが、その象徴なのだと思います。

なにも知らないダニー、運命を知らないサラ、未来の強化(戦闘用に改造)人間グレースが理想像、そして戦い続ける運命を受け入れた初老のサラが、現実と戦い続けた現在・・・。

こうした視点に立つと、タイトルでもあるターミネーターが、“戦う女性の引き立て役”に見えてくるから不思議です。T2以降の3作はターミネーターがメインだったのですが・・・。

女性の方が強靱(きょうじん)なのかもしれません。そのほうが現実に則しているのでしょうか。次回は「決算!忠臣蔵」を予定しています(敬称略。【ケイシーの映画冗報】は映画通のケイシーさんが映画をテーマにして自由に書きます。時には最新作の紹介になることや、過去の作品に言及することもあります。当分の間、隔週木曜日に掲載します。また、画像の説明、編集注は著者と関係ありません)。