コロナ禍で、人生の転換点に立って、これからの行き方を惑う(7)

【モハンティ三智江のインド発コロナ観戦記=2020年4月27日】4月20日付で、インド全土1万7656人の感染者を記録、2万人に達するのは時間の問題になってしまった。幸いにも、今のところ、当オディシャ(0DISHA)州は61人と、抑えられている方だが、油断は禁物。

私邸の神棚、向かって右端に夫の遺影が飾られている。毎朝、コロナ危機を乗り越えてサバイバルできるようにとの祈りを欠かせない。

毎朝8時30分起床後、スマホにダウンロードしたリラックスミュージックを流しながら、2階のリビングの肘掛けイスにもたれつつ、目が完全に覚めるまでまどろみ、30分後やおら立ち上がってヨガの準備体操、15分後またイスに座って休憩、それから、3階の書斎兼寝室に上がって、ヨガのアサナ(ポーズ)を始める。

アサナは中高年向けの簡単なものばかり、15分後の最後のポーズ、シャバアサナ(屍=しかばね=のポーズ)で大の字になってマットに寝転ぶときが一番リラックスする。私が独自に編み出した行法では、ここからが長い。イメージ療法や、瞑想、呼吸法、レイキと続き、最後にポジティブな文句を連呼して締める。

先代オーナー、ビダヤダール・モハンティの遺影は今も、ホテルを見守っている。故人が命名したホテル名、「ラブ&ライフ」の由来は、人類愛と、かけがえのない命、それに伴う生命活動、即ちライフのこと、今の危機時深い意味を持つシンクロニシティが。

たっぷり2時間、これでロックダウン(都市封鎖)下のストレスを乗り切るエネルギー源が培(つちか)われる。8種の野菜・フルーツを使った自家製ミックスジュースや、苦いゴーヤジュース、ハチミツ入りライムジュースも免疫力を強めるのに一役買っていると思う。

朝食前に欠かせない祈祷(プジャ)儀式がある。うがいと手洗いで清めた後、神棚の水を取り替え、線香2本を焚(た)く。そして、下段の夫の遺影、上段の当地のシンボル神・ジャガンナート様、京都の三十三間堂の千手観音像と、次々に祈りを捧げていくのだ。亡夫や、日印の神様にお願いするのは、私や息子をはじめ、日印の家族・親戚友人一同、ホテルスタッフ並びに「ホテル・ラブ&ライフ」が、コロナ危機を乗り越えてサバイバルすること、をだ。

庭の一角に祀られた夫の遺灰にも、花びらを浸した芳水をふりかけ、線香を手向け、最後にオフィスの遺影にも、同様の祈りを捧げる。

そして、本格的1日が始まるわけだ。先月22日から始まったロックダウンは今日(4月20日)で30日目、ヨガの日課がなかったら、異国で独り暮らしの未亡人の私が乗り切れたかどうかわからない。

ホテル・ラブ&ライフのレセプション(受付)は、コロナ禍で無人、隅の壁の先代遺影に見守ってくれるよう祈願、手前の黒い革張りの椅子が、故オーナーが愛用していたチェア。

更年期障害が原因で本格的に現地インストラクターについて始めたものだが、インド古来の心身統制法は大いに役立っている。コロナ前はサボりがちだったのだが、ヨガなしではこの危機はとても乗り越えられないと思い、毎朝敢行している。

それにしても、今こそ命の大切さを身に染みて実感することはなく、これまでの私は平和ボケ、まったくおめでたいというか、優先第一であるべきの生命価値をないがしろにしてきた。

5カ月前に夫に急死されて目が覚めたのだが、何とか立ち直り、夫のレガシーを引き継いで、ホテルを続けていこうという気になっていたところに水を差されてしまった。運命は私に別の道を用意してるのかと、迷いのループに逆戻り、本当にコロナ禍には、いろいろ考えさせられる。

私だけでないだろう。人生の岐路に立たされ、悩んでいるのは。世界中の人々が今新たに人生の転換期に立って、今後の生き方の指針に行きあぐねているに違いない。

ふっと、インドという枠組みから外れて素の自分に戻るべきなのではないかとも思う。どこかで私からインドを取ってしまえば、アイデンティティーがなくなってしまうと恐れているのだ。ほんとにそうだろうか。

「インド在住作家」という肩書きにこだわる自分、インドが売りになり、他の作家と差別化、ユニークな位置づけを、勲章を私に与えてくれていると思い込んでいる。そんなレッテルではなく、中身で真剣勝負すべきときに来ているのではないか。

最後の審判は、人類に、私個人にどのように下されるのだろうか。愛する家族を守るため、真の人生を選択するため、誰しもが試されている(「インド発コロナ観戦記」は「観戦(感染)記」という意味で、インドに在住する作家でホテルを経営しているモハンティ三智江さんが現地の新型コロナウイルスの実情について書いており、随時、掲載します。モハンティ三智江さんは感染していません。また、息子はラッパーとしては、インドを代表するスターです。13億人と中国に次ぐ世界第2位の人口大国、インド政府は3月24日に全28州と直轄領などを対象に、完全封鎖命令を発令し、25日0時から21日間、完全封鎖し、4月14日に5月3日まで延長しました。4月26日現在、インドの感染者数は2万6496人、死亡824人。州別の最新の数字の把握が難しく、著者の原稿のままを載せています)。