【ケイシーの映画冗報=2020年5月14日】先月、「外出の自粛や人数の集まる状況を控えるように」という“緊急事態宣言“が出された直後に、芸能のお仕事をされている知人から、こんなことを聞きました。
「舞台やステージの仕事が全部、なくなりました。こんな短期間で一気に状況が変わるなんて、まるでSFかアニメですよ」
ところが、“事実は小説より奇なり”という言葉があるように、映画興行という実業の世界で一番、結果を出しているのがSFやアニメという、虚構そのものなのです。
2020年現在、世界の興行収入トップテンのうち、SFが6作で、アニメが1作品となっています。残る3本もCGを多用した、エンターテイメント色の強い作品となっています。日本での10傑ですと、国産アニメが4本に、海外アニメ1本、残る5本もファンタジーや歴史作品なので、CGが大きなウェイトを占めています。アニメやCGとかかわりのない作品は1本しかないのです。
「重苦しくなりがちの作品より、荒唐無稽でも楽しめるフィクション」を選んでしまうのもまた、現実世界を生きる人間の本能なのかもしれません。
その世界興収で27億9780万ドル(約2800億円)を記録し、現在1位なのが、今回取り上げる2019年の「アベンジャーズ/エンドゲーム」(Avengers:Endgame)です。
アメリカのコミックブランド「マーベル」のスーパーヒーローが一堂に会して、強大な侵略者と激闘する「アベンジャーズ」は本作「エンドゲーム」で合計4作の終結となるわけですが、2008年の「アイアンマン」(Iron Man)からはじまったマーベル・ブランドのヒーローたちの実写映画シリーズ「マーベル・シネマティック・ユニバース(MCU)」は21作目の集大成でもあります。
加えて、前年の2018年に公開された「アベンジャーズ/インフィニティウォー」(Avengers:Infinity War)につづく“前後編の後半”というストーリー構成でありながら、前編(世界興収5位で興収20億ドル=約2000億円)を越えるヒット作ということも特筆に値するでしょう。
タイタン人サノス(演じるのはジョシュ・ブローリン=Josh Brolin)が「増えすぎた生命の均衡」のために全宇宙の生命の半数を消滅させてから5年。多くの仲間を喪った“アベンジャーズ”のメンバーは、敗北と喪失感をかかえながら、それぞれの日々を送っていました。
ところが、「過去にさかのぼってサノスの行動を阻止できる」という可能性が見つかり、仲たがいしていたアイアンマン(演じるのはロバート・ダウニー,jr.=Robert Downey, Jr.)とキャプテン・アメリカ(演じるのはクリス・エヴァンス=Chris Evans)らは再集結、ふたたび“アベンジャーズ”として、「喪われた時間と仲間」を復活させることを画策するのです。
巨大企業のトップで天才発明家という“アイアンマン”ことトニー・スターク。第2次大戦中に愛国心から超人兵士となった“キャプテン・アメリカ”は、価値観や理想から、これまでの作品で幾度となく対立し、ついにはお互いのチームでの全面対決をくりひろげています(「シビル・ウォー/キャプテン・アメリカ(Captain America: Civil War、2016年)」)が、絶対の危機には共闘して、地球を救ってきました。
ほかにも“人造人間”や“宇宙人”、“神様”までが居並ぶアベンジャーズが、前作では大敗を喫してしまったのが前作のラストだったのです。じつは、前作が2部構成になっていることを知らずに鑑賞しており、本当にバタバタとヒーローが消滅していくラストに、「ヒーローたちが負けて終わるの!?」と予想外の驚きを感じました。
MCUシリーズのプロデューサーであるケヴィン・ファイギ(Kevin Feige)はこの結末をこう述べています。
「勝つと思っていたヒーローたちが勝たないままで映画が終わったら、いったい何が起こるのか(後略)」(本作のパンフレットより)
この術中に自分もカッチリ、はまったわけです。いわばヒーローたちの挫折からの復活という“絶望からの挑戦”が、後編である本作のテーマではないでしょうか。
先週末の報道ですが、本年3月の家計調査で「映画・演劇等の入場料」は7割近く減少しているそうです。多くの映画館や劇場が閉まっている4月は、さらに厳しい数字が出ることは必至です。
明るく楽しい話題がすくなく、映画館や劇場など、行きたくても行けない状況がまだ続いています。そんなとき、やはり楽しめるものを楽しむのが一番ではないでしょうか。「ヒーローたちの敗北、そして再生」、個人的にはおすすめしたいですね。ネット鑑賞もあり、2部作で5時間30分という長さですが、冗漫さはないのでご安心を。次回も映画に関する話題を提供させていただく予定です(敬称略。【ケイシーの映画冗報】は映画通のケイシーさんが映画をテーマにして自由に書きます。時には最新作の紹介になることや、過去の作品に言及することもあります。当分の間、隔週木曜日に掲載します。また、画像の説明、編集注は著者と関係ありません)。