インドでコロナの感染拡大下、段階的に緩和が進むも(19)

【モハンティ三智江のインド発コロナ観戦記=2020年6月8日】ロックダウン(都市封鎖)もあと2日で終わる5月29日、全土の感染者数は16万6000人(死亡者4706人)、最悪のマハラシュトラ州(Maharashtra)は、5万6948人(死亡者1897人)である。

博物館や美術館などの文化施設が集まる石川県金沢市内の「本多の森公園」は、緑豊かで散策にはもってこい。昨秋愛でた、アメリカ楓(ふう)の燃えるような真紅は今もまぶたに焼き付いている。早く金沢に戻って、自由に外出を楽しみたいと、郷愁は募るばかり。

27日に7000人近い感染者が出たが、翌日若干減り、また29日に7000人を越す急増、14歳の少年占星術師が29日から減少しだすと予言したのはどうも、外れそうな雲行きになってきた。

日本の10倍の人口なので、単純に日本の数字に0を付け加えてもらえればわかるが、現時点で日本の水準に達したということになる。しかし、死亡者数はぐっと少なく、日本の半分である。

やはり、日頃から感染症への耐性ができていることもあるのだろう。後、インドは今、酷暑季というのもあるかもしれない。新型ウイルスは紫外線と湿気に弱いそうだから。最悪のマハラシュトラ州の感染者数の7割は無症状だそうだ。

当オディシャ州(Odisha)は冷夏、時期外れの雨によく見舞われている。都市部の感染州からの出稼ぎ労働者の受け入れにより、感染が地方に拡大する懸念か強まっているが、例に漏れず、当州も1593人と増大した。ただし、隔離センター内でのことで、死亡者が7人と少ないのが救われるが、当地プリー(Puri)も53人(回復者33人)と増えて、いよいよ敷地内から出にくくなってしまった。軟禁69日目、まだまだ記録を更新しそうだ。

さて、5月末で一旦終わるロックダウン、さらなる延長はあるだろうか。私の推測では、ありだが(多分2週間)、次の延長はこれまでに比べ、緩和措置が一段と取られるだろう。もう既に当地でも、経済活動再開に向けての動きが見られるし、国内便も去る25日再開されたことは前回お伝えした通りだ。

旧陸軍兵器庫を改造した赤レンガミュージアム(石川県立歴史博物館、金沢市・本多の森公園内)。ノスタルジックな古めかしい建物は風情があって、フリー開放コーナーもあるので、立ち寄るのも楽しい。コロナ禍でしばらく休館していたが、5月18日より再開、6月1日からは県外者も受け入れる。

6月1日からは、さらに全土が再開に向けての、よちよち歩きながら、前に踏み出すはずだ。既に州都のホテルは営業再開している。再開が許されても、当面は開店休業状態が続くだろうが、6月23日の山車祭が客寄せになると期待するホテル業者もいる。無観客祭の催行そのものが危ぶまれているのに、同業者として、それはかなり甘い見通しなのではないかと思う。コロナ禍をものともせず、山車作りは本番目指してせっせと進められているのだが。

●成田コロナ余話
前回、海外からの帰国者が、母国の非情な水際措置に遭遇して、帰宅難民を余儀なくされる事態もあることを述べたが、浮浪者並みにダンボールベッド生活を強いられる人もいるらしいと知って、心底驚いた。

ほかに、東京の友人が送ってくれた情報によると、2週間の隔離を要求される帰国者向けのゲストハウスがあるとのことで、確かにコロナ禍でがら空きの民宿としては、帰国者にターゲットを絞っての商売戦略は、リスクは皆無とはいえないが、背に腹は変えられないといったところだろう。

金沢市内の卯辰山にある懐石料理亭「卯辰(うたつ)かなざわ」。1998(平成10)年創業来、愛顧されてきたが、コロナ禍の影響で5月31日をもって閉店した。昨秋、訪ねたのが最初で最後になってしまった。

フリーで空港まで送迎車も出してくれるとのことで、気になるお値段の方は、1K貸切りで何人泊まっても11万円、ツインベッドなので、息子と泊まることも可能だ。

時期が来たら、馴染みの外人宿に、送迎車と宿泊の打診もしてみるつもりだ。公共の交通機関は使えないわ、歩いて行ける距離にあるホテルには宿泊拒否されると聞いて、帰国はほぼ絶望的と悲観していたのだが、一筋の希望も湧いてきた。捨てる神あれば、拾う神あり、需要と供給がマッチした、ニッチなサービス、この時期、誰からも敬遠される海外帰りには、誠にありがたい、救世主様様である。

まぁ、成田でダンボールベッド生活も、若かったら、面白かったかもしれないが。好奇心旺盛なジャーナリスト魂には、滅多に書けない体験ルポをものにできたろうし、転んでもただて起きない、貪欲なしたたかさは長年のインド暮らしで培われている。30年以上、日印を渡り歩いてきた草の根のしぶとさは持っているつもりだ。

しかし、いくら海千山千、老練な私でも、よる年波には勝てない、快適志向に転向した自分を堕落した、やわと思うが、成田で浮浪者に落ちぶれたくないと、健康を気遣うフツーの中高年ぶりが顔を出す。

「卯辰かなざわ」の内部は数寄屋造りで風流、和風の個室からは、すだれ越しに美しい山の眺望を楽しみながら、食事ができた。

(「インド発コロナ観戦記」は「観戦(感染)記」という意味で、インドに在住する作家で「ホテル・ラブ&ライフ」を経営しているモハンティ三智江さんが現地の新型コロナウイルスの実情について書いており、随時、掲載します。モハンティ三智江さんは福井県福井市生まれ、1987年にインドに移住し、翌1988年に現地男性(2019年秋に病死)と結婚、その後ホテルをオープン、文筆業との二足のわらじで、著書に「お気をつけてよい旅を!」(双葉社)、「インド人には、ご用心!」(三五館)などを刊行しており、感染していません。

また、息子はラッパーとしては、インドを代表するスターです。13億人超と中国に次ぐ世界第2位の人口大国、インド政府は3月24日に全28州と直轄領などを対象に、完全封鎖命令を発令し、25日0時から21日間、完全封鎖し、4月14日に5月3日まで延長し、5月1日に17日まで再延長、17日に5月31日まで延長し、31日をもって解除しました。これにより延べ67日間となりました。ただし、5月4日から段階的に制限を緩和しています。

「卯辰かなざわ」の懐石料理(左下が金沢名物の治部煮)。見た目の美しさに、味も上品、コース料理はデザート・コーヒー付き(2019年10月)。インドで軟禁生活を強いられている私は、昨秋の美味を思い出し、外食への焦がれが募るが、今はなき名店で、惜しまれるばかりだ。

6月8日現在、インドの感染者数は25万7486人、死亡者数が7207人。
州別の最新の数字の把握が難しく、著者の原稿のままを載せています。また、インドでは3月25日から4月14日までを「ロックダウン1.0」とし、4月14日から5月3日までを「ロックダウン2.0」、5月1日から17日までを「ロックダウン3.0」、18日から31日を「ロックダウン4.0」と分類していますが、原稿では日本向けなので、すべてを「ロックダウン」と総称しています)