インド、71日間封鎖解除も、わがホテル再開の望みは?(20)

【モハンティ三智江のインド発コロナ観戦記=2020年6月10日】インドで全土に3日先駆けての当オディシャ州(Odisha)による3月22日からのロックダウン(都市封鎖)が、5月31日の71日間でひとまず解除を見た。


屋上から俯瞰した、わが「ホテル・ラブ&ライフ」。600坪の敷地は、豊かな緑で覆われ、前方に3階建てのビル、後方にロッジ、脇にコッテージ4棟、計23室だが、サイクロンで損傷を受けたロッジは機能不全だ。

中央政府が予定通り5月末日でロックダウンを解除、国民の大半は延長されることを予想していたため、意外と言えば意外だったが、そろそろ経済再開しないと、やばいとの判断だろう。

しかし、6月2日現在、全土で20万人近くと感染拡大に歯止めがかかったわけでなく、当地プリー(Puri)に関して言えば、少し車の行き来が増えたくらいで、人通りは相変わらず多くないし、もっぱら二輪車、三輪車である(当州の感染者数も2000人を超えた)。

連邦制で州が独自の権限を持っているため、たとえば、中央政府が州間移動OKと言っても、デリー(Delhi)準政府のように州境封鎖を続けることもありうるわけで、あとは各州の判断に委ねるということだ。

6月8日からは、ホテルの営業再開の望みも出てきたが、こちらも当州政府がどう判断するかによるので、ぬか喜びは禁物だ。それに、開業が許されたとしても、当面は客日照りの開店休業状態になることは目に見えている。ただ、休業要請がいったん解除されることは気持ち的にも、ホッとするものがある。

思えば、インド在住の32年、一度たりとてホテルを閉めたことがなく、年中無休だったから、かれこれ80日、あるいは州政府の決定いかんでそれ以上になるかもしれない非常事態は、長い「ラブ&ライフ」のホテル史の中でも前代未聞の出来事で、まさかこの年になってこのような試練に見舞われようとは思ってもみなかった。

昨年11月に夫が突然死し、いったんは畳むことも考えたホテルだったが、故人のレガシーを守ろうと、私が前面に立って継続へと舟を漕ぎ出していたのだ。が、3カ月目に予想外のウイルス騒動に見舞われ、津波に等しい大変事に足元を掬われた。

感染数最悪の西インドの大都会ムンバイにベースを持つ人気ラッパー、Rapper Big Deal がわか息子。国内線再開で帰郷予定だが、2週間の隔離は免れ得ない。

昨年5月から、サイクロン、日本の母の骨折・特養ホーム入所、わが夫の急死と矢継ぎ早に凶事に見舞われ、伴侶の死の衝撃からようやく立ち直りかけた矢先の大凶事、まぁ、今まで夫任せで楽をしすぎたことのツケが回ってきた感もなきにしもあらずなのだが。

インドの1日の感染者数は、毎日記録を更新し、最新で8300人を超え、この分では1万人台に達しそうである。グラフの曲線は急上昇、減少する気配はない。

6月ひと月でどこまで増大するかと思うと、ぞっとするが、救いは致死率が2.8%と低く、回復率が48%と比較的高めなこと。それでも、回復者を差し引いても10万人余、13億人の人口から見れば、他国に比べパーセンテージは低いとはいうものの、懸念される現状である。

さて、現地メディアがこぞって騒ぎ立てているアンロックダウン(Unlockdown、都市封鎖解除)、段階を踏んで徐々に緩和されていくわけだが、中央政府の方針で8日にショッピングモールやホテル、レストランの再開が許可された。

しかし、学校再開や国際線の再開は最終の第3段階(国内線は5月25日に再開された)、日本に飛行機が飛ぶのは、8月以降になるのではないかと思う。6月末まで停止で、7月に再開との声もあるが、今月の推移を見て、折れ線グラフが少しでも下に向かないことには、国際線再開は難しいだろう。

そんな中、6月8日の全日空便の欠航に合わせて、すでに予約してあった国内線のフライトの再キャンセルを余儀なくされ、頭を悩ませている。すでに国内線が再開されてしまったもので、リファンド(返金)もかなわず、日程変更のみ可能ということで、悩みは深まるばかりだ。

一応、設定しておいて、また変更のほうが、新たに買うより安いだろうかと迷ったり、この状況下の国内線のみの日程変更はどう考えても無理があり、帰国日程がいまだ定まらない中、先行して国内線だけ設定するのは土台無理な話だ。

ロックダウンが解除されても、基本的に引きこもり生活は変わらず、解放感はさして大きくなく、唯すでに緊張感は薄れていて、住民も自主緩和に走っていたので、惰性で軟禁生活がだらだらと続いていく感じ、過激なインド人も、クラッカーをパンパン鳴らして解除を喜ぶという開放感には程遠かった。

吉報は息子が来月帰郷予定でいること、ただし感染爆発都市・ムンバイ(Mumbai)からの帰還で、州政府に隔離センターに追いやられるリスクがなきにしもあらず、自宅隔離が許されるなら、別棟のホテルで2週間過ごすと言っているが。隔離センターは不衛生で、入居者が逃げ出す騒ぎもあったため、感染リスクもあるし、自宅隔離が許可されないことには、帰郷案もおじゃんだ。

しかも、またしても最悪のタイミングで、真っ赤っ赤のディープレッド・ゾーン、マハラシュトラ(Maharashtra)・グジャラート州(Gujarat)をサイクロンが通過するとの予報が出ている。早速息子に、「ワッツアップ(What’sApp)」(インドでは、ラインよりポピュラーな無料アプリで、無料コール・チャットが可)で警告を促す私だった。

(「インド発コロナ観戦記」は「観戦(感染)記」という意味で、インドに在住する作家で「ホテル・ラブ&ライフ」を経営しているモハンティ三智江さんが現地の新型コロナウイルスの実情について書いており、随時、掲載します。モハンティ三智江さんは福井県福井市生まれ、1987年にインドに移住し、翌1988年に現地男性(2019年秋に病死)と結婚、その後ホテルをオープン、文筆業との二足のわらじで、著書に「お気をつけてよい旅を!」(双葉社)、「インド人には、ご用心!」(三五館)などを刊行しており、感染していません。

また、息子はラッパーとしては、インドを代表するスターです。13億人超と中国に次ぐ世界第2位の人口大国、インド政府は3月24日に全28州と直轄領などを対象に、完全封鎖命令を発令し、25日0時から21日間、完全封鎖し、4月14日に5月3日まで延長し、5月1日に17日まで再延長、17日に5月31日まで延長し、31日をもって解除しました。これにより延べ67日間となりました。ただし、5月4日から段階的に制限を緩和しています。

6月9日現在、インドの感染者数は26万5928人、死亡者数が7473人。州別の最新の数字の把握が難しく、著者の原稿のままを載せています。また、インドでは3月25日から4月14日までを「ロックダウン1.0」とし、4月14日から5月3日までを「ロックダウン2.0」、5月1日から17日までを「ロックダウン3.0」、18日から31日を「ロックダウン4.0」、6月1日から「アンロックダウン(Unlockdown)1.0」と分類していますが、原稿では日本向けなので、すべてを「ロックダウン/アンロックダウン」と総称しています。

ただし、インド政府は5月30日に感染状況が深刻な封じ込めゾーンについては、6月30日までのロックダウンの延長を決め、著者が住むオディシャ州は独自に6月末までの延長を決めています。この政府の延長を「ロックダウン5.0」と分類しています)