事実と架空をブレンドした、非現実の世界を描いた「ライオンキング」(270)

【ケイシーの映画冗報=2019年8月22日】本作「ライオン・キング」(The Lion King、2019年)は、1994年のアニメーション映画「ライオン・キング」の再映画化ですが、日本では19年(1998年から)というロングランで知られるミュージカル作品としてのほうが広まっているかもしれません。

現在、一般公開中の「ライオン・キング」((C)2019 Disney Enterprises, Inc. All Rights Reserved.)。

本作を監督したジョン・ファヴロー(Jon Favreau)も、
「気がつけば『ライオン・キング』はお笑いにも音楽にも、テレビ番組にもネタとして常に使われています。もう社会共通のカルチャーになっているんですね」(パンフレットより)と述べています。

アフリカの広大なサバンナ“プライドランド”は、偉大なライオン一族の王によって治められていました。現在の王ムファサ(声の出演はジェームズ・アール・ジョーンズ=James Earl Jones)は、幼い息子のシンバ(声の出演はドナルド・グローヴァー=Donald Glover 他)に、王としての振る舞いと生き方を伝えていきます。

平和な王国に危機が迫ります。じつの兄ムファサに放逐されたスカー(声の出演はキウェテル・イジョフォー=Chiwetel Ejiofor)が、ムサファを事故にみせかけて殺し、その罪をシンバになすりつけます。自責の念にとらわれたシンバはひとりで大自然をさまよいますが、故郷とは違った楽園にたどりつき、あたらしく得た仲間たちと暮らすようになります。

やがて成長し、立派なライオンとなったシンバのもとに、幼なじみの雌ライオンであるナラ(声の出演はビヨンセ・ノウルズ=カーター=Beyonce Knowles=Carter、他)があらわれ、荒廃してしまった“プライドランド”の窮状を伝え、シンバに戻るよう説得します。

最初は今の生活をうしないたくないと拒絶するシンバですが、やがて自分のなさねばならない運命を悟ります。

監督のジョン・ファヴローは、コメディアンを目指してショービジネスの世界に足を踏み入れていますが、俳優としてより、監督・脚本の力量で認められていきます。

最大の成功作は、現在の映画界で最大のシリーズとなっている「マーベル・シネマティック・ユニバース(MCU)」の第1作でシリーズの流れを決定づけた「アイアンマン」(Iron Man、2008年)を監督として、シリーズ全体の成功への道程をつくりあげたことでしょう。

それだけでなく、製作・監督・脚本をこなし、なんと自身で主演した「シェフ 三ツ星フードトラック始めました」(Chef、2014年)という作品もあるほど、多彩な人物です。ファヴロー監督が腕はいいが融通のきかないシェフを演じた、楽しい逸品でした。

本作では前の監督作である「ジャングル・ブック」(The Jungle Book、2016年)で描いた自然界をさらにブラッシュアップした大自然のパノラマを背景に、数多くの動物が自由自在に躍動する、壮大な映像となっており、前作のように実在の俳優が登場することはありません。

当然のことながら、CG画像の映画なので、制作作業はコンピュータとそのモニター内で完結していると思われがちですが、実写用の撮影機材も積極的に使われたそうです。バーチャル・リアリティ(VR)を活用して、実際に撮影されたアフリカ各地の映像を見て、映像チームが映画の完成映像を作り上げたのだそうです。

「CGには実は限界があるんです。人はそれまで見たことのあるものを見たときに、リアルだなって思う。だから、実写のドキュメンタリーで使っているカメラワークなどを採り入れることで、リアルに思えるようにしたかった」(2019年8月2日付「読売新聞夕刊」)。

たしかに、小鳥からアフリカ象までが一堂に会するという状況は、自然界にはありえません。15頭ほどのライオンの群れは東京23区内の半分ほどの広い土地を生活圏としています。その場所から獲物がいなくなれば、あらたな獲物を求めて移動しますから、本作のように定住しているわけはないのです。

「事実と架空が絶妙にブレンドされた世界」が本作の基本理念なのだと感じます。ではなぜ、観客はこうした“あり得ない世界”に惹かれるのでしょうか。

「王の息子が父を殺され、地位を失うものの、返り咲く」というプロット自体は古典的なもので、かのウィリアム・シェイクスピア(William Shakespeare、1564ー1616)の名作「ハムレット」(Hamlet)がひとつの完成形といえるはずです。

「古くからある、時がたっても色あせない物語を新しいテクノロジーで作ることができれば、現代性を持たせられるし、今の若者や子どもたちの心により響くつづり方ができますから」(前掲紙)

ファヴロー監督の言葉に作品作りの本質を強く感じます。次回は「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド」を予定しています(敬称略。【ケイシーの映画冗報】は映画通のケイシーさんが映画をテーマにして自由に書きます。時には最新作の紹介になることや、過去の作品に言及することもあります。当分の間、隔週木曜日に掲載します。また、画像の説明、編集注は著者と関係ありません)。