大丸松坂屋画廊で山田勇魚「帰港」展、捕鯨母船の部品等で

【銀座新聞ニュース=2024年7月4日】国内百貨店業界2位の流通グループ、J.フロントリテイリング(中央区八重洲2-1-1)傘下の大丸松坂屋百貨店(江東区木場2-18-11)が運営するアートギャラリー「Artglorieux GALLERY OF TOKYO」(中央区銀座6-10-1、GINZA SIX、03-3572-8886)は7月4日から10日まで山田勇魚さんによる作品展「船出はせしか」を開く。

大丸松坂屋百貨店のギャラリー「Artglorieux GALLERY OF TOKYO(アールグロリュー ギャラリーオブトーキョー)」で7月4日から10日まで開かれる山田勇魚さんの個展に出品される「拾骨【日新丸】」(日新丸、石、ラッカー塗料)。

造形作家の山田勇魚(いさな)さんは15年間、「付喪神(つくもがみ)」をテーマに制作してきたが、近年ではこの言葉の定義の狭さと実際に伝えたいコンセプトのズレを感じている。

タイトルの「船出はせしか」は万葉集の「昨日こそ/船出はせしか/いさなとり /比治奇の灘(ひじきのなだ)を/今日見つるかも」(3893番、作者は730(天平2)年に大宰帥大伴旅人=665-731=が大納言に任ぜられた折、大伴旅人とは別途に海路で上京した従者「傔従(従者)」とされるが、詳細は不明)から取っている。航海が無事に終わり、船出したのが昨日のことのようだという趣旨の歌で、「人生において時の流れの早さを感じる瞬間は何かを終えた時なのかも知れない」という。

国内唯一の捕鯨母船「日新丸」(1987年に竣工)が36年間の役目を終え、後継船「関鯨丸」が今年3月に竣工した。これに伴い、共同船舶から譲り受けた「日新丸」の部品で新作を発表する山田勇魚さんは今年36歳になる。

「現代に生きる人々が薄らと感じている物に対する愛着・畏敬の念をカタチにしたい」と語る山田勇魚さんは役目を終えた船の部品を手にして新作を発表する。

ウイキペディアによると、「付喪神」は日本に伝わる、長い年月を経た道具などに精霊(霊魂)が宿ったものとされている。また、「伊勢物語」の古注釈書である「伊勢物語抄」(冷泉家流伊勢抄)では、「陰陽記」にある説として百年生きた狐狸などが変化したものを「つくもがみ」としている。「つくもがみ」という言葉、ならびに「付喪神」という漢字表記は、室町時代の御伽草子系の絵巻物「付喪神絵巻」に見られるもので、道具は100年という年月を経ると精霊を得てこれに変化することができるという。

同じく出品される「帰港【マッコウクジラ】M」(エポキシ樹脂、珊瑚砂、プラモデル)。

日新丸 (3代目)は日本水産がアメリカからの商業捕鯨撤退の交換条件として出された遠洋漁業に使用するために、日立造船因島工場(現・ジャパン マリンユナイテッド因島事業所)で建造され、1987年12月に竣工したトロール船「筑前丸」で、アメリカが「パックウッド・マグナソン法」を制定し、排他的経済水域での遠洋漁業の認可も取り消したため、行き場を失っていた。

そこで、第三日新丸の代替として日立造船因島工場で捕鯨母船に改造し、「日新丸」に改名した。トロール船から改装された経緯から、これまでの捕鯨母船と比べると1万トンに満たない、かなり小型の捕鯨母船で、1991年の第5回南極海鯨類捕獲調査から捕鯨に従事し、2019年まで毎年、日本鯨類研究所に傭船され、27回にわたり、調査捕鯨の調査母船として運用された。2019年7月の日本の商業捕鯨再開以降は、日本近海の沖合水域で母船式捕鯨の母船として運用された。

船主は日本水産のままだったが、2005年に共同船舶に売却された。2007年2月25日に南極海ロス海において工場甲板部から出火し、作業員1人が死亡、2月24日に自力航行が可能になったものの、その年の南極海鯨類捕獲調査は中止となった。維持管理に1年間で7億円がかかるなど老朽化が著しく、代替船の建造が進んだことから、2023年11月6日に最後の航海を終えた。

部品や設備の一部を後継の関鯨丸で転用し、2023年12月より北九州市の工場で解体が始まり、2024年5月に廃船となった。

「関鯨丸」は共同船舶が建造した捕鯨母船で、2021年5月10日に共同船舶は南極海まで航行して漁場で作業を行う新母船の建造費を60億円とし、全額を鯨肉卸値の2割値上げや借入金、クラウドファンディングにより自己資金で調達し、船体の大型化による航続距離の確保やナガスクジラ解体への対応を図り、2024年3月29日に竣工した。山口県下関市の旭洋造船が建造し、旭洋造船で入魂式と引渡調印式が行われた。

旭洋造船が設計したが、旭洋造船が捕鯨母船を建造するのは初めてで、捕鯨母船の新造自体が1951年竣工の日新丸(2代目)以来約70年ぶりであり、そのため旭洋造船の担当者が日新丸を見学したり、乗組員の意見を聞いたりする、手探りでの設計となった。

建造費抑制のために設計はRO-RO船をベースにしたが、設計変更などの影響で、建造費用は2023年3月時点で70億円に高騰し、最終的に75億円となった。建造費のうち3億円は、母港となる下関市が補助した。関鯨丸は2024年5月21日に下関港を出航し、5月24日に東京港に寄港してお披露目式を実施、東北地方沖合の太平洋で母船式捕鯨を行い、6月9日に仙台港で試験的な荷役を実施、最終的に12月に下関港に帰港する予定。

山田勇魚さんは1998年神奈川県生まれ、2009年に多摩美術大学グラフィックデザイン科に入学、2010年に東京藝術大学に入学、2014年に同大学美術学部を卒業、卒業時に東京藝術大学卒業制作展でデザイン賞、2016年に同大学院美術研究科デザイン専攻を修了、修了時に東京藝術大学修了制作展でデザインN賞、2016年から2019年まで東京藝術大学教育研究助手。

開場時間は10時30分から20時30分(最終日は18時)まで。