インド、1週間で陽性者10数倍、嵐の前に鳥とイルカ観察 (87)

【モハンティ三智江のインド発コロナ観戦記=2022年1月18日】新年早々、懸念していた第3波が到来した。1月7日時点で全土の陽性者が10万人を突破、10万人超は7カ月ぶりで、昨年末時点では1万人以下、最少6000人台まで激減していたのに、たった1週間で10数倍と、最速で拡大した。

オミクロン株とその他の主要または過去にSARSコロナウイルス2の懸念される変異株に指定された変異株。2021年12月1日のNextstrainのデータを元に遺伝距離によって放射状に拡大した木として描いたもの(画像はいずれもウィキペディア)。

8日付けのデータでは、全土の新規陽性者数は14万2000人とさらに増えて(総数3540万人、死者48万3000人、新規死者数285人)、特にマハラシュトラ州(Maharashtra、新規陽性者数4万0925人、総数683万人、死者14万2000人、新規死者数20人)、首都デリー準州(Delhi、新規陽性者数1万7335人、総数151万人、死者数2万5136人、新規死者数9人)、西ベンガル州(West Bengal、新規陽性者数1万8213人、総数171万人、死者数1万9864人、新規死者数18人)が赤信号である。

インド政府は、海外からの入国者の検疫を強化、従来の陰性証明オンライン提出に自費の空港検査(非リスク国も2%任意選出検査)、全員に1週間の自宅またはホテル隔離を義務付けた。現在、ワクチン接種2回完了者は45.4%だが、10代の接種も上限を18歳から15歳に引き下げ、3日から加速化している。

懸念材料としては、ウッタルプラデシュ(Uttar Pradesh)、パンジャブ(Punjab)、ウッタラカンド(Uttarakhand)、マニプール(Manipur)、ゴア(Goa)の5州で州議会選挙を控え、集会などの選挙活動も活発化している昨今、バーチャルキャンペーンが推奨されているものの、密がさらなる感染を広げることが予想される。

当オディシャ州(Odisha)は、昨年末、最少200人台まで激減したが、本日は新規2703人(総数106万人、死者8468人、新規死者数1人)と、10倍以上に増えた。オミクロン株による初の死者(42歳女性)も昨年12月27日に出ている。夜間外出禁止令の時間が1時間早まり、21時から5時までとなったほか、州都の空港に到着した帰省・旅行者は全員PCR検査が義務付けられた。感染者数が増大するにつれて、再ロックダウン(都市封鎖)もありうるだろう。

観光業者には再打撃で、当「ホテル・ラブ&ライフ」」も年末年始、お客さんで賑わったが、またしても閑古鳥の憂き目を見そうだ。北隣の西ベンガル州からの家族連れ旅行者が多いのだが、マハラシュトラに次いで陽性者数が激増しているため、要注意だ。でなくとも、観光各地ともキャンセルが相次ぎ、国内便も減便と聞く。なお、当地のメインテンプル、ジャガンナート寺院(Jagannath)も閉院(間際に7万人余の信者か駆け込み参拝)、10日から学校も閉鎖が決まった。

急拡大の要因がオミクロン株であることはいうまでもなく、現時点で全土3000人超、昨年末の時点で新変異株による感染者は140万人にのぼると推定されていたが、アメリカの陽性者数が過日100万人を超えたところを見ると、人口が13億8000万人と膨大なインドでは、それくらいで収まらないだろう。実際、マハラシュトラ州はピーク時は800万人との空恐ろしい数字が取りざたされている。推定どおりなら、インド全土1000万人を超すことは間違いなく、デルタ爆発をはるかに上回る超度級TSUNAMI(ツナミ)ということになる。

ただ感染力はデルタの3倍から5倍ながら(潜伏期間も3日と短い)、重症化のリスクは低いようで、インドでもオミクロン株陽性者の8割以上が無症状なことを見ると、いたずらにパニックに陥るものでない。

重症や死に結びつかないなら、従来の風邪のようなもので、恐れるにあたらない。かといって、過小評価は禁物で、ドクターをはじめ、医療関係者が相次いで感染し(100人規模のクラスター=感染者集団)、週末ロックダウンに入った首都デリーの病院はパンク寸前との報も伝わっている。

個人的には、嵐の前の静けさを逃さず、年始の遠出を済ませといて正解だったと思っている。当地プリー(Puri)から車で2時間のバードサンクチュアリ(マンガラジョディ=Mangalajodi)や、アジア一のラグーン(チリカ=Chilika湖)にドルフィンウオッチングと、2年ぶりの外出を楽しんだのだ。

シベリアからの渡り鳥が飛び群れるアジア1のラグーン、チリカ湖。年始にボートクルーズでドルフィンウオッチングや、無人島のバージンビーチも満喫、2年ぶりの遠出を楽しんだ。

5月のデルタ大爆発でパニックに陥った経験があるだけに、今回の変異株騒動は比較的冷静に見ており、今後の推移を見守る心構えでいる。たくさんの人が感染し、集団免疫ができてしまえば、デルタ株への抗体という面でも有効で、災い転じて福となることを祈るばかりだ。

震源地の南アフリカ(Republic of South Africa)では、ひと月でピークを越え、鎮静化していることから、希望的観測も生まれ、願わくば、大爆発は避けられないとしても、早期に終息して欲しいものだ。

弱毒化したオミクロンがパンデミック(世界的大流行)終息につながるとの説もあるし(次の小コラム参照)、感染率は高いものの、重症化や死につながらないなら朗報で、日本も急拡大しているようだが、風邪やインフルエンザのように一般診療が認められれば、医療危機を招くこともないのではなかろうか。

〇トピックス/オミクロン流行はパンデミックの終焉?

南アフリカでは、新型コロナウイルスのオミクロン変異株が前例のない速さで進んだものの、その症状は従来株に比べはるかに軽症であった。南アの医療研究評議会(Medical Research Council of South Africa、MRC)の調査によると、流行期の死亡率は4.5%に過ぎす、従来の21%を下回り、集中治療室(ICU)への入院も少なく、期間も大幅に短かったとのことだ。

首都プレトリア(Pretoria)のスティーブ・ビコ学術病院(Steve Biko Academic Hospital)の患者データを分析した研究者らは、パンデミックが終わりに向かっていることを示唆するものかもしれないとの見解を示した。

「このパターンが続き、世界で繰り返されるなら、感染率と死亡率の完全なるデカップリング(分離)が起こる公算が大きい。新型コロナが世界的流行を終え、エンデミック(地域的流行)段階に入る先触れだ」と、オミクロン株が果たすかもしれない役目の可能性について、ほのめかした。

(「インド発コロナ観戦記」は「観戦(感染)記」という意味で、インドに在住する作家で「ホテル・ラブ&ライフ」を経営しているモハンティ三智江さんが現地の新型コロナウイルスの実情について書いており、随時、掲載します。モハンティ三智江さんは福井県福井市生まれ、1987年にインドに移住し、翌1988年に現地男性(2019年秋に病死)と結婚、その後ホテルをオープン、文筆業との二足のわらじで、著書に「お気をつけてよい旅を!」(双葉社)、「インド人には、ご用心!」(三五館)などを刊行しており、コロナウイルスには感染していません。また、息子はラッパーとしては、インドを代表するスターです。

2022年1月12日現在、世界の感染者数は3億1349万8180人、死者は550万4387人(回復者は未公表)です。インドは感染者数が3587万5790人、死亡者数が48万4213人(回復者は未公表)、アメリカに次いで2位になっています。

ちなみにアメリカの感染者数は6230万8472人、死亡者数が84万2141人(回復者は未公表)、日本は感染者数が180万5212人、死亡者数が1万8426人、回復者が171万7587人(ダイヤモンド・プリンセス号を含む)。インドの州別の最新の数字の把握が難しく、著者の原稿のままを載せています。

また、インドでは2020年3月25日から4月14日までを「ロックダウン1.0」とし、4月14日から5月3日までを「ロックダウン2.0」、5月1日から17日までを「ロックダウン3.0」、18日から31日を「ロックダウン4.0」、6月1日から6月末まで「アンロックダウン(Unlockdown)1.0」、7月1日から「アンロックダウン2.0」と分類していますが、原稿では日本向けなので、すべてを「ロックダウン/アンロックダウン」と総称しています。

ただし、インド政府は2020年5月30日に感染状況が深刻な封じ込めゾーンについては、6月30日までのロックダウンの延長を決め、著者が住むオディシャ州は独自に6月末までの延長を決め、その後も期限を決めずに延長しています。この政府の延長を「ロックダウン5.0」と分類しています。2021年3月から第2波に突入するも、中央政府は全土的なロックタウンは発令せず、各州の判断に任せています。マハラシュトラ州や首都デリーはじめ、レッドゾーン州はほとんどが州単位の、期間はまちまちながら、ローカル・ロックダウンを敷いています。編集注は筆者と関係ありません)。