フィクションの世界を楽しみたい新「スパイダーマン」(267)

【ケイシーの映画冗報=2019年7月11日】本作「スパイダーマン ファー・フロム・ホーム」(Spider-Man:Far From Home、2019年)は、本年にエンディングをむかえた人気シリーズ「アベンジャーズ」をふくめた「マーベル・シネマティック・ユニバース(MCU)」23本めの劇場作品です。

MCUのフェーズ3として最後の作品となる「スパイダーマン ファー・フロム・ホーム」。MCUの興収は累計200億ドル(約2兆円)という巨大なシリーズになっている。

複数の人気キャラクターが同一の世界観で活躍するMCUの世界は、お互いが関わり合いながら、映画作品としては独立しており、単体で鑑賞しても違和感なく楽しめるという工夫が凝らされていますので、お気に入りのキャラクターが出る作品だけを見ても、観客は満足できるように仕上がっています。

単体でもシリーズ全体でも確立した作品世界を、しっかりと整合させるというのは、大変な難事業であるはずですが、MCUはこれを成功させているといえるでしょう。シリーズの興収が累計200億ドル(約2兆円)!!という映画シリーズは空前の存在なのですから。

そのMCUの世界の新たなページを刻むのが本作となっています。ヒーローチーム“アベンジャーズ”の戦いにより、平和を取り戻した世界。スパイダーマンことピーター・パーカー(演じるのはトム・ホランド=Tom Holland)は、ニューヨークの高校生という日常を送っていました。

ヨーロッパへの科学ツアーに参加し、有意義な夏休みを過ごそうとするピーターでしたが、旅行先のヴェネチアで水の怪物に遭遇します。気になる同級生MJ(演じるのはゼンデイヤ=Zendaya)たちを守るピーターの前に、空中を飛び、ビームを操るミステリオ(演じるのはジェイク・ギレンホール=Jake Gyllenhaal)があらわれ、怪物を撃退します。

ミステリオは他の次元から“エレメンタルズ”と呼ばれるモンスターを追ってこの世界にきたと語り、ピーター/スパイダーマンに協力を要請します。

ピーターはミステリオと共に戦い、かれに尊敬の念をいだきます。そして、自分より「ヒーローにふさわしい」として、この世界を救って旅立ったヒーロー“アイアンマン”から託された「軍事システムに直結するサングラス」をミステリオに渡してしまいます。

この決断によりピーター/スパイダーマンと世界は、さらなる脅威に直面することになるのでした。

超人戦士や改造人間、宇宙人や神様も登場するMCUの世界で、特殊なクモに噛まれてヒーローの能力を得たスパイダーマンは、「あなたの親愛なる隣人」と名乗り、現役高校生という立場もあって、いわば“ご近所ヒーロー”という存在なのですが、今回はヨーロッパを舞台に「世界を破壊しかねない」という“エレメンタルズ”と対峙し、別次元のミステリオとも関わっていきます。

タイトルの「ファー・フロム・ホーム(ふるさとを離れて)」のとおりなのですが、もうひとつ「少年期の終わり」というふくみもあると感じました。

劇中、ピーターはアイアンマンの残した「軍事システムを操れる装置」を渡され、その威力にとまどい、責任の重さに苦しみます。スパイダーマンのモチーフである「大いなる力には大いなる責任がともなう」をあらわしているのですが、この責任を放棄して、他者に託すことで、ピーターは大変な事態を引き起こしてしまうのです。

この先のストーリーは“ネタバレ”になるので控えますが、関連するであろう事例をひとつ、紹介します。ここ数年、「フェイク(ニセ)ニュース」という存在がネットを中心に問題となっています。最近は「ディープ(深い)フェイク」という、著名人や政治家の発言を動画で捏造してしまうことも可能となってきました。

CGが映画に活用されるようになった30年ほど前には、高価なコンピュータとあらたなソフトが必要だったのですが、いまでは家庭用のマシンと市販のソフト(ネット上のフリーソフト)で誰でも簡単に作れるようになりました。20年前は1時間かかった作業が、現在では1秒で終わるそうなので、画像製作のハードルは格段に下がっているといえるでしょう。

かつて劇作家の井上ひさし(いのうえ・ひさし、1934-2010)は現代を「ニセモノにホンモノが全部負ける」と語ったと伝えられています。

ネガティブな意味ではないつもりですが、「映画」というメディアもまた「つくられたもの」であり、銃撃や大爆発、巨大な陰謀はみな「実在しない(できない)もの」です。

広義の意味ではニセモノであるわけですが、フィクションが楽しめない世界に、あまり魅力を感じることはできないと信じています。次回は「アイアン・スカイ/第三帝国の逆襲」の予定です(敬称略。【ケイシーの映画冗報】は映画通のケイシーさんが映画をテーマにして自由に書きます。時には最新作の紹介になることや、過去の作品に言及することもあります。当分の間、隔週木曜日に掲載します。また、画像の説明、編集注は著者と関係ありません)。

編集注:ウイキペディアによると、「マーベル・シネマティック・ユニバース(Marvel Cinematic Universe)」はアメリカン・コミックの「マーベル・コミック」を原作としたスーパーヒーローの実写映画化作品を、同一の世界観のクロスオーバー作品として扱う作品群をいう。マーベル・スタジオが制作するシェアード・ユニバース作品で、現在では短編映画、テレビシリーズなどに拡大している。

MCU初の公開作品は「アイアンマン」(2008年公開)で、時系列のまとまりである「フェーズ」の第1段階をスタートさせ、この「フェーズ1」は2012年公開の「アベンジャーズ」でピークに達する(全部で6点)。

「フェーズ2」は「アイアンマン3」(2013年公開)から始まり、「アントマン」(2015年公開)で終了する(全部で6点)。「フェーズ3」は「シビル・ウォー/キャプテン・アメリカ」(2016年公開)で始まり、「スパイダーマン:ファー・フロム・ホーム」で終了する(全部で11点)。これらのフェーズ1から3の23作品をまとめて「インフィニティ・サーガ」と呼ぶ。

世界でもっとも大きな興行的成功を収めている映画シリーズであり、2位の「スター・ウォーズ」シリーズに大差をつけ、世界歴代1位の興行収入を記録している。

また「フェイズ4」も予定されており、「Guardians of the Galaxy Vol.3」 (原題、公開日未定)が作られている。