スパイアクションもコメディ仕立てで楽しめる「ノンストップ」(309)

【ケイシーの映画冗報=2021年2月18日】昨年末の日本10大ニュースで5本、世界10大ニュースでも2本が選ばれた(読売新聞)“新型コロナウィルス”の影響が、日本国で顕著化しておよそ1年。明るいニュースも伝わっていますが、懸念材料もおおく存在します。

現在、公開されている「ノンストップ」((C)2020 OAL&Sanai Pictures Co., Ltd. All rights reserved)。

とくに飲食や旅行といった業種では深刻な影響が起きています。もちろん、映画の世界も新作の公開延期や未定といった難事に直面しています。

韓国で揚げパン店をいとなむミヨン(演じるのはオム・ジョンファ=Eom jeong hwa)は、パソコン修理業の夫ソクファン(演じるのはパク・ソンウン=Park Sung-woong)とひとり娘という家族に囲まれ、つつましいながらも幸せな生活を送っていました。

そんな一家にジュースの景品でハワイ旅行が舞い込みます。人生初の海外旅行、行き先が南国の楽園ハワイということで3人は浮かれモードで機中の人となります。

しかし、その飛行機は武装したテロリストにハイジャックされてしまいます。その目標は、なんとミヨンの身柄でした。ミヨンは北朝鮮の優秀な工作員であったという過去を持ち、テロリストもその過去の因縁にからんでいたのです。

テロリストのひとりに出会った瞬間、ミヨンの過去が目覚め、一瞬で相手を制圧してしまいました。一方、ミヨンの身を案じる夫ソクファンも、パソコンの知識を生かして飛行機のシステムに浸入し、独自の行動をとりはじめます。くわえて、テロリストのチーム以外にもあやしげな人物が幾人も乗客の中にいるのでした。

本作「ノンストップ」(Okay Madam、2020年)は、こうして粗筋だけを記すると、本格的なスパイアクション、あるいは国際謀略を扱った作品のように感じられますが、“明るく楽しくはげしいコメディ映画”という仕上がりで、肩の凝らないエンターメイメントとなっています。

同一の民族と国家が“南北分断”という状況にあり、対決姿勢をゆるめない隣国が存在する韓国では、その国家体制や世情に独自性があることは、昨年のアメリカ・アカデミー賞で作品賞や監督賞など、4部門で栄誉に輝いた「パラサイト 半地下の家族」(Parasite、2019年)にもあらわれています。

“半地下”の家屋は、北朝鮮との軍事境界線である38度線から200キロまでという首都ソウルなどで造られたのですが、経済成長による都市部の住宅不足によって、防衛設備から民生に移行していったという変遷があります。

本作の主人公ミヨンは北朝鮮からのがれたもと工作員で、彼女を狙うのも北から韓国に亡命した人物という設定です。“敵側の人物を味方に取り立てる”というのは奇異にも見えますが、“敵対陣営からはなれた人物を厚く遇する”という対外宣伝としての意味をあり、実際に政府の仕事に従事することもあるそうです。

北から潜入した工作員と韓国の諜報員が主人公の「シュリ」(Shiri、1999年)や、北朝鮮からの亡命者が実は“亡命を艤装した諜報員”であった「二重スパイ」(DOUBLE AGENT、2003年)などは、韓国ならではのストーリーではないでしょうか。

本作の監督イ・チョルハ(Lee Cheol-ha)は、音楽系のビデオ作品から前作「消された女」(Insane、2018年)のような社会派のシリアスなドラマ、本作のようなコメディを貫いた作品まで、幅広いジャンルを手がけています。

それは主人公のミヨンを演じたオム・ジョンファも同様で、韓国内では国民的と呼ばれる歌手でありながら、女優としても積極的に活動しており、本作では、50歳にして(失礼!)本格的なアクションにも挑戦しています。

全編コメディ色の本作ですが、ハイジャックされる旅客機内は精緻に表現されています。長距離路線の旅客機に常備されている乗務員用の休憩スペースが描かれた映画は、ちょっと記憶にありません。

また、ミヨンが駆使する格闘シーンも、昨年、本稿で取り上げた韓国映画「悪人伝」(The Gangster, the Cop, the Devil、2019年)のアクション監督チェ・ボンロク(Choi Bong-rok)によってリアルに描かれており、コメディタッチであるからこそ、他のディテールにはリアルにすることで、楽しめる部分がより強調されることになるのです。

とはいえ、「いくらなんでもこれは・・・」という部分がないわけではありません。ですが、そうしたものも含めて、楽しめる作品となっているので、どうかご安心を。

去年のいまごろまで、なんとか楽しめた海外旅行ですが、現状では観光などでの渡航再開の不透明です。重苦しい世情ではありますが、戦争になっていたり、すべてを壊すような天変地異ということでもないのです。

“歌舞音曲禁ず”という社会でもないのですから、せめて映画ぐらいは気楽に楽しみたいものです。次回は「ガンズ・アキンボ」の予定です(敬称略。【ケイシーの映画冗報】は映画通のケイシーさんが映画をテーマにして自由に書きます。時には最新作の紹介になることや、過去の作品に言及することもあります。当分の間、隔週木曜日に掲載します。また、画像の説明、編集注は著者と関係ありません)。

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