インド、地方で感染拡大、邦人無料検査も帰国者に過酷な陰性証明(70)

【モハンティ三智江のインド発コロナ観戦記=2021年6月1日】5月5日からの当オディシャ州(Odisha)の再ロックダウン(都市封鎖)開始で10日が過ぎた。15日の土曜はウィークエンド・シャットダウンで店も閉まるので、昨日必要な野菜や果物の購入を、甥に頼んだばかりだ。

ロックダウンで夕暮れの浜を散歩することが叶わなくなった。屋上から遠目に眺めるのみで我慢(写真は2017年1月撮影)。

昨年3月22日からほぼその年一杯という長い長いロックダウンを強いられたので、州封鎖には慣れたが(今回は一応19日までだが、延長間違いなし)、困るのは、物資不足になること。州民が事前にパニック買いに走ったためと、内外の輸送が滞ることの弊害だが、せめて生活必需品が不足することだけはないようにしてもらいたい。

住民に再軟禁を長期間強いるのだから、そのくらいの対策はしてもらいたいと思うが、インドの田舎町では、のれんに腕押し、日頃からインフラが整ってないのだから、しょうがない。都会のように、ドアステップ・デリバリーも望めないし、我慢するしかない。

あと、もうひとつ不便なのは、髪を切れないこと。土台、保守的な当地では、女性は髪を切らず、日本の美容院のようなハイテクカットは望むべくもなく、いつも帰国時カットしていたのだが、それができない。州都のビューティーパーラーに行こうかと思っていたところ、第2波襲撃で行けなくなってしまった。自前カットの動画を見て、自分で切るしかないかと思っている昨今である。

さて、当オディシャ州(人口約4600万人、面積は日本の約半分)の新規感染者数は15日のデータで1万2390人超(累計58万9000人、回復者49万2000人、死者2273人)、1万人突破が連日、インド都市部がやや収まりかけているのと裏腹に、地方に広がりつつあり、モディ(Narendra Damodardas Modi)首相もルーラルエリアへの拡大に警鐘を鳴らしている。

地方は医療制度が都会以上に脆弱なので、第2波に足元を掬われると、酸素枯渇やICU不足で二の舞のさらに壮絶な地獄絵図が繰り広げられないとも限らない。

北隣の西ベンガル州(West Bengal)も、8番目のミリオン超州にランクインし(累計109万人、死者1万2993人)、新規数は2万0846人と急増中、遅ればせながら、16日からロックダウンに入る予定だ。

パンデミック勃発から、久しくサンドアートを見ない。写真は、当地プリーのシンボルの神様、宇宙の主ジャガンナート・ロートを象った砂造型。1化身が仏陀の平等を標榜するヒンドゥ神は、原住民が崇めていた土着神に由来を遡り、手足のない真っ黒の御神体にまん丸大目玉のユーモラスな風采(2017年1月撮影)。

酸素欠乏は依然各地で続き、西部ゴア(Goa、人口約20万人)や、南部カルナータカ州などで、多数のコロナ罹患者が、あたら命を落としている。ゴアはパンデミック以前、欧米人旅行者のリゾート楽園として名を馳せた観光地で、第1波時は、感染者が少なくコロナフリーに近い地域だったが、今や住民の2人に1人は陽性と言われ、変異株が気の緩みを突いた感じだ(累計13万5千人、新規数2455人、死者1998人)。

一方、南部カルナータカ州((Karnataka、人口約6113万人)は、最悪の西部マハラシュトラ(Maharashtra、人口約1億1200万人、累計531万人、死者7万9552人)の新規感染者数3万9923人(回復者5万3249人と上回るが、ロックダウン効果か)を追い抜き4万1779人(累計213万人、死者2万1085人)と、懸念される状況だ。

息子が大学時代から同州都バンガロール(Bangalore、2006年からベンガルール=Bengaluru=に改称、人口約1300万人のIT都市、インドのシリコンバレー)に15年近く暮らしていたせいで、私にとっても馴染みの深い都市ゆえ、憂慮される。

年2度の帰国はいつも、バンガロール国際空港からだった。今も月2度程度往路のみの臨時便が、日本の航空会社によって運航されているようだが、陰性証明が必須になった時点で、私自身は帰国を断念している。

日本のニュースで、欧米などの先進国の在留者に陰性証明を求めるのはともかくも、インドのような中進国の邦人にも、同等の措置を求めることは、特に医療崩壊している現状では、至難で情状酌量があってもいいのではないかとの見解を述べていたが、まさに当方の気持ちを代弁してもらった思いだ。在留邦人は、帰りたくても帰れないジレンマの狭間で、悶々としている。

都会に住んでいても、今のメガ第2波下では、陰性証明を取ろうにも、何時間も列に並んでの順番待ち、感染リスク大である。それ以前に、東インドの田舎町プリー(Puri)に住む私は、医療設備がお粗末で72時間前証明なんて、不可能に等しい。

亜熱帯の土壌ゆえ、怠惰癖が染み付いており、それでも都会ならまだしも、田舎は特に期限にルーズ、なんである。とにかく、インドはただですら不如意の国、物事が思うように運ばないが、今はパンデミック(世界的大流行)という最悪のタイミング、そんな不便極まりない後進国のしっぽをつけた国の在留邦人に、陰性証明を取れとは、酷な仕打ちである。

それも、日本の書式に合ったものでないと、入管ではねられ送り返されると聞いた。まるで、犯罪者の強制送還である。インタビューを受けた駐在員が、風評被害も懸念していたが、然り、インドから今帰ったら、誰にも歓迎されない、敬遠されるだけである。

既に日本政府は、インドからの外国人の入国は在留資格を持っていても、禁じており、検疫局による隔離期間も3日から6日に延びたが、どうせなら丸々2週間国費で面倒見てもらいたい。自費隔離がなくなって願ってもないのだが、うかうかしてると、オーストラリア政府のように、自国民までインドからは入国禁止という冷酷無比の措置を取られそうで恐い(今のところ自国民は受容。また豪政府は自国民救出にインドに救援機を向けることも検討中)。

そんな窮状下、移動も隔離施設も何とかするからと申し出てくれた東京在住の旧友がいて、涙が出るほどうれしかったが、ひとまず第2波が収まるまでは、動けそうにない、いや、動かない方が賢明だ。

というわけで、終息の日まで郷愁本能をあやしあやしやっていくしかない。きつい、きついと言っているうちに、1年の半分が過ぎようとしているし、ステイホームをヨガや、執筆、日本の映画やドラマ鑑賞で費やしながら、何とかやっていくしかない。

私個人は、カルマの精算と思っているような節もある。亡夫にホテル業を丸投げし、依存心の強い日本人妻に成り下がっていたことの。インドという国の、プリーという地域のカルマもあるだろう。公共のモラルがなく、ゴミ捨てポイの国民性、ナイロンの袋だらけの路上、私も郷に入っては郷に従えの黙認の加害者だ。

プリーに関して言えば、ホテル街は拝金主義、有名な観光聖地であるのをいいことに荒稼ぎ、挙句に平然と汚水垂れ流してベンガル湾(Bay of Bengal)の侵食という自然破壊を招いた。モラル皆無の観光客のばらまくゴミで、浜も汚れっぱなし、昔美しかった海は悲鳴をあげていた。

そもそものカルマ(karman)解消の発端は、2019年5月のプリーを直撃した前代未聞規模のスーパーサイクロンだった。パンデミックは、人類が地球を破壊し続けてきたことの報い、生態系の狂いから生み出されたものだと思う。だから、私も含め、自然破壊を看過してきた共犯者は多かれ少なかれ、精算を強いられる。

個人的事情からいうと、ホテルに片がつくまで帰れそうにない。逃げて帰りたい気持ちをぐっとこらえて、カルマ解消に臨むしかない。今逃げれば、来世で支払わなければならないため。自分が撒いた種は、自分で刈り取らねばならない。

ほんと、コロナが突然消えるとか、日本政府が救援機を差し向けるといった奇跡でも起こらない限り、たっぷり後1年は辛抱を強いられそうである。

本日15日のインド全土の統計は、累計数2440万人(回復者2040万人)、新規感染者数32万6000人、死者26万6000人で、新規死者数は3890人と、連日の4000人超を下回ったが、ガンジス河(Ganges)への遺体投棄が何百体と明るみに出、実数ははるかに多いだろう。各地でワクチン不足が相次いでおり、当州政府は新規買い付けのための海外企業による入札を許可した。

私個人は、既に記事中で表明したように、インドで接種するつもりはないが、ワクチンパスポート制が導入され、接種証明書なしに帰国不可となったら、致し方ない。そうならないことを祈るのみだが、先行き不透明なパンデミック下、どのように予想外の事態が起こっても、驚かないような心構えだけは備えておきたい。

最後になったが、日本政府も遅ればせながら、インド支援に乗り出し、救援金55億円始め、酸素濃縮器や人口呼吸器などの物資供与を表明したことを付け加えておく。日頃インドの最大の支援国である友交国家からのサポートは、親日家のインド人にとっても、何よりうれしいことにちがいない。

〇コロナ速報/回復患者にムコール症発生

新型コロナウイルスに感染して回復した人の中に、ムコール症((Mucor、ケカビ)、俗に言う黒カビ真菌感染症が発生するケースが増えており、インド特有の事例として、危惧されている。

重い糖尿病の既往歴がある人がかかりやすく、コロナ治療に使われるステロイド薬が原因ではないかと言われるが、詳細はわかっていない。これまでに、西部マハラシュトラ州で200人、北西部グジャラート州(Gujarat)で100人の事例が報告されているが、当州でも1例見つかった。

ムコール症は、土壌や朽ち葉、木などで繁殖し、土や空気、健康な人の鼻や粘膜にも存在する真菌の1種・ムコールミセテスによって引き起こされる感染症で、真菌胞子を吸い込むことで、副鼻腔や肺に定着すると、血流を通じて広がり、脳や目、脾臓、心臓に影響を与えるとされる。既に眼球摘出を余儀なくされたケースもあり、適切に治療しないと、死に至る恐れもあるようだ。

インドは、世界第2位の糖尿病大国、7290万人の患者を抱えていることからも、今後も同様の事例が報告されそうだ。

〇コロナ余話/原住民やペットも感染

当オディシャ州の奥地には、絶滅に瀕する原住民がいまだに暮らしており、トライバルエリアへのツアーは売りにもなっていたが、メガ第2波からは孤絶した原住民も免れ得なかった。

マルカンギリ(Malkangiri)地方の高地に住むボンダ族(Bondas)に8人、ラヤガダ(Rayagada)地方のドングリア・コンドゥ族(Dongria Kondhs)に5人の陽性者が出たのだ。絶滅に瀕する種族に感染が広がると、死者が出ないとも限らず、存続が脅かされるという意味でも、憂慮される。

一方、動物たちも感染を免れ得ず、ハイデラバード(Hyderabad、南部アンドラプラデシュ=Andhra Pradesh=州都)の動物園では虎が、当州では、陽性発覚の飼い主が飼育していたパンゴリン(Pangolin、センザンコウ)の感染が発覚した。

センザンコウとは、硬いうろこを持つ小さな哺乳類の絶滅種珍獣で(松ぼっくりに手足がついたような生き物)、うろこは万病に治療効果があり(胎児は精力剤)、密売者の垂涎の的。

コウモリが媒介すると言われる新型コロナウイルスだが、実は、センザンコウ媒介説もあり(コウモリからセンザンコウ移行説と、両者の菌株ミックス説)、となると、感染源は、飼い主でなく、ペットの方だったのかもしれない。

〇邦人関連緊急朗報/邦人用に無料の検査機関

記事中に書いた在留邦人の苦境を見るに見かねて、日本大使館がデリー日本人会やインド日本商工会と協力し、5月17日から(6月16日まで)首都デリー(Delhi)近郊のグルガオン(Gurgaon)に、日本人専用の検査機関が設けられることになった。

インドに進出している日系企業は約1455社、在留邦人は全土に約1万人いるとされるが、大使館からの退避勧告を受けて、駐在員及びその家族を退避させた、あるいは今後その用意があると応えた企業が8割に達した。

邦人の感染が増えており(160人、1人死亡)、医療逼迫下、重症化しても適切な治療が受けられない事態を配慮し、日本政府もようやく動き出したようだ。

ちなみに、グルガオン在住のユーチューバー、定期的に動画配信している2人の若い女性も、感染したようで(軽症)、最近の動画で体験談並びに今のインドの惨状を語っていたが、うち1人のゆきんこさんは、インドにとどまり見届けると宣言、救急車不足をオート三輪で代用する逞しさを持ったインド人だけに、乗り切れると信じていると、力強く述べていたのが印象に残った。

(「インド発コロナ観戦記」は「観戦(感染)記」という意味で、インドに在住する作家で「ホテル・ラブ&ライフ」を経営しているモハンティ三智江さんが現地の新型コロナウイルスの実情について書いており、随時、掲載します。モハンティ三智江さんは福井県福井市生まれ、1987年にインドに移住し、翌1988年に現地男性(2019年秋に病死)と結婚、その後ホテルをオープン、文筆業との二足のわらじで、著書に「お気をつけてよい旅を!」(双葉社)、「インド人には、ご用心!」(三五館)などを刊行しており、コロナウイルスには感染していません。

また、息子はラッパーとしては、インドを代表するスターです。13億人超と中国に次ぐ世界第2位の人口大国、インド政府は2020年3月24日に全28州と直轄領などを対象に、完全封鎖命令を発令し、25日0時から21日間、完全封鎖し、4月14日に5月3日まで延長し、5月1日に17日まで再延長、17日に5月31日まで延長し、31日をもって解除しました。これにより延べ67日間となりました。ただし、5月4日から段階的に制限を緩和しています。

2021年5月24日現在、世界の感染者数は1億6718万2325人、死者は346万3996人、回復者数は1億0363万7406人です。インドは感染者数が2675万2447人、死亡者数が30万3720人、回復者が2372万8011人、アメリカに次いで2位になっています。

ちなみにアメリカの感染者数は3311万7767人、死亡者数が58万98923人(回復者は未公表)、ブラジルの感染者数は1608万3258人、死亡者数が44万9068人、回復者数が1413万2443人です。日本は感染者数が72万1855人、死亡者数が1万2404人、回復者が64万1292人(ダイヤモンド・プリンセス号を含む)。インドの州別の最新の数字の把握が難しく、著者の原稿のままを載せています。

また、インドでは2020年3月25日から4月14日までを「ロックダウン1.0」とし、4月14日から5月3日までを「ロックダウン2.0」、5月1日から17日までを「ロックダウン3.0」、18日から31日を「ロックダウン4.0」、6月1日から6月末まで「アンロックダウン(Unlockdown)1.0」、7月1日から「アンロックダウン2.0」と分類していますが、原稿では日本向けなので、すべてを「ロックダウン/アンロックダウン」と総称しています。

ただし、インド政府は2020年5月30日に感染状況が深刻な封じ込めゾーンについては、6月30日までのロックダウンの延長を決め、著者が住むオディシャ州は独自に6月末までの延長を決め、その後も期限を決めずに延長しています。この政府の延長を「ロックダウン5.0」と分類しています。2021年3月から第2波に突入するも、中央政府は全土的なロックタウンはいまだ発令せず、各州の判断に任せている。マハラシュトラ州や首都圏デリーはじめ、レッドゾーン州はほとんどが州単位の、期間はまちまちながら、ローカル・ロックタウンを敷いている。編集注は筆者と関係ありません)。